在宅介護の難しさ――「家の中だからこそ」見えにくいしんどさ

高齢になり、外出がおっくうになったり、身の回りのことに手が回らなくなってきても、すぐに施設に入るわけではありません。
「まだ大きな病気はないし」「できることも残っているし」と、自宅で家族と暮らしながら介護を続ける方は少なくありません。
しかしこの「在宅で、家族と一緒に介護する」段階こそ、実はとても難しい時期でもあります。
引きこもりがちになったり、デイサービスを嫌がったり…。ケアマネジャーと作ったケアプランだけでは、なかなかうまくいかないことも増えてきます。
ここでは、在宅介護の難しさと、介護する側・される側の両方が追い込まれないための考え方をまとめます。
1. 在宅介護が難しく感じる場面
在宅介護が「思った以上に大変だ」と感じるのは、こんな場面が重なるときです。
- 外出やデイサービスを強く嫌がる
「行きたくない」「しんどい」「面倒くさい」と言われ、家族は説得に疲れてしまいます。 - 生活リズムがずれていく
昼夜逆転や、食事・入浴の拒否が続き、家族の生活リズムも巻き込まれて崩れていきます。 - 家族関係がギクシャクしていく
介護者の「何とか良くなってほしい」という思いが強いほど、言い方がきつくなったり、感情的になったりしがちです。 - ケアプランではカバーしきれない時間が長い
デイサービスや訪問介護の時間以外、多くの時間を家族だけで支えなければならず、精神的にも体力的にも負担が蓄積します。
「ちゃんとしないと」「もっと頑張らないと」という気持ちが強いほど、うまくいかない現実とのギャップに苦しみやすくなります。
2. 介護される側のしんどさ
引きこもりがちになった高齢者の心の中には、こんな思いが隠れていることがあります。
- できない自分を見たくない
昔はできていたことが、今はうまくできない。その現実が悔しくてつらくて、「やらない」という選択をしてしまうことがあります。 - プライドが傷つく怖さ
人前で失敗したり、迷惑をかけたりするのが怖くて、外出やデイサービスを避けてしまうこともあります。 - 変化への不安
新しい場所・新しい人間関係に適応するのは、高齢になるほどエネルギーが必要です。「知らないところへ行くくらいなら、家でいい」と考えてしまいます。 - 家族に甘えたい気持ち
「家族だから分かってくれるはず」という甘えと、「これ以上迷惑をかけたくない」という迷いが入り混じり、素直な気持ちを言えないこともあります。
外に出ない・活動しないことは、ただの“わがまま”ではなく、不安や悲しみの表現である場合も少なくありません。
3. 介護する家族のしんどさ
一方で、介護する家族にも深い疲れがあります。
- 24時間、頭の中が介護モード
「ちゃんと食べたかな」「転んでいないかな」と、いつも気にかけている状態が続きます。 - 優しくしたいのに、イライラしてしまう
何度も同じことを言わなければならなかったり、拒否が続いたりすると、どんなに優しい人でも心がすり減っていきます。 - 自分の時間がなくなる
趣味や友人と会う時間が減り、「自分の人生が止まっている」と感じることもあります。 - 「家族だから頑張らなきゃ」というプレッシャー
「他人には頼めない」「家族で何とかしないと」という思いが、余計に自分を追い込んでしまいます。
こうした状態が続くと、介護うつや共倒れにつながる危険もあります。
4. ケアプランだけに頼らない付き合い方
ケアマネジャーが立てるケアプランは大切ですが、それだけで全てが解決するわけではありません。
特に、デイサービスを嫌がる場合には、次のような“柔らかいアプローチ”も役に立ちます。
4-1. 「行かせる」より「一緒に考える」
- 「なんで行かへんの!」と責める代わりに、
「何がしんどい?人が多いのがイヤ?時間が長い?」と、理由を一緒に探っていきます。 - 行く・行かないの二択ではなく、
「まずは見学だけ」「午前中だけ」「気に入った曜日だけ」など、小さく試せる選択肢をいくつか用意して、本人に選んでもらうことも一つの方法です。
4-2. “役割”をお願いする
完全に「お世話される側」になると、意欲が落ちやすくなります。
できる範囲で、家の中での役割をお願いしてみます。
- タオルを畳む
- 庭の水やりをする
- ポストを見に行く
- 今日の献立を一緒に考える など
「してあげる」一方ではなく、「手伝ってもらう」「頼る」場面を増やしていくことで、本人の自己肯定感が少しずつ戻ってくることがあります。
4-3. 楽しみを“外”だけに求めない
外出やデイサービスがどうしてもハードルが高い時期には、家の中に楽しみを増やす工夫も大切です。
- 好きな音楽を一緒に聴く
- 昔のアルバムを見ながら話を聞く
- 好きなテレビ番組・スポーツ観戦を「一緒に見る時間」を決める
“リハビリ”や“訓練”と構えすぎず、「楽しい時間を増やす」視点も忘れたくありません。
5. 家族だけで抱え込まない工夫
ケアプランで用意されているサービスがうまく使えていないときこそ、ケアマネジャーに「現状の困りごと」を率直に伝えることが大切です。
- デイサービスの内容や時間帯の見直し
- 訪問リハビリ・訪問看護・家事援助など、別のサービスの組み合わせ
- 定期的なショートステイで、家族が休める日をあらかじめ確保する
「こういうサービスはありますか?」と聞くのではなく、
「こういう時にしんどい」「家族がこれ以上だとつらい」と、“感情込みで”話すことで、ケアマネジャーも提案をしやすくなります。
また、家族だけで支えきれないと感じたときは、
- 地域包括支援センター
- 介護者の家族会
- 心理カウンセリングや相談窓口
など、第三者に気持ちを聞いてもらう場を持つことも、心の負担を軽くします。
6. 追い込まれないための「ほどほど」を決める
在宅介護は「完璧にやる」ほど苦しくなります。
大切なのは、次のような“ほどほどライン”を家族で決めておくことです。
- 今日は「これだけできたらOK」という目安を決める
- 介護する家族も、「この時間は自分の時間」と決めて守る
- イライラしてしまった日は、「今日はこれ以上頑張らない」と区切る
そして、どうしても感情が抑えられない日があっても、それを「失敗」と決めつけないこと。
人間同士が家の中で長く向き合うのですから、衝突もあって当然です。
大事なのは、後から「言い過ぎたかな」と気づいたときに、「さっきはきつい言い方してごめんね」と一言伝え、また関係をつなぎ直していくことです。
おわりに――在宅介護は“チーム戦”
在宅介護の難しさは、
「家族だから当然にできるはず」
「まだ施設に入るほどじゃないから」
という、見えないプレッシャーから生まれることも多くあります。
家族だけで何とかしようとせず、ケアマネジャーや専門職、地域の支援、時にはショートステイなども含めて、「チーム戦」で考えていくことが、追い込まれない在宅介護への第一歩です。
介護される側・する側のどちらも、
「ほどほどに頑張る」ことを自分に許していけたら、
在宅で過ごす時間は、もう少し優しく、穏やかなものになっていきます。
(広報担当)
