世界糖尿病デーと介護

私たちの医療は日々進歩し、平均寿命は伸び続けています。一方で、糖尿病は「治し切って終わり」ではなく、暮らしの中で上手に付き合っていく必要がある病気です。介護の現場でも、血糖コントロールの難しさを理由に受け入れ条件が限られる場合があり、ご本人やご家族にとって大きな不安や負担になりがちです。世界糖尿病デーを機に、糖尿病と介護をどう結び、どう向き合うかを一緒に考えてみませんか。
なぜ介護の現場で糖尿病が重要なのか
糖尿病は合併症や低血糖・高血糖のリスクが日常のケアと密接に関係します。食事・運動・服薬・インスリン投与、さらには感染症や脱水への備えなど、介護のあらゆる場面で「ちょっとした判断」が将来の健康を左右します。だからこそ、介護・医療・家族の三者連携が要になります。
入居のハードルを下げる鍵は「見える化」
「血糖変動が大きい」「インスリン自己管理が不安」などは、施設にとって受け入れ判断の核心です。
そこで大切なのは、以下の“見える化”です。
- 普段の血糖変動の傾向(いつ乱れやすいか、食前後・就寝前の記録)
- 服薬・注射の手順(時間、単位、注意点を簡潔に)
- 低血糖サイン(顔色・発汗・手の震え・訴えの特徴)と優先対応
- 生活上の工夫(間食の種類、外出時の持ち物、就寝前の確認事項)
これらが整理され共有されていれば、施設はケア計画を描きやすくなり、ご本人の希望に沿った受け入れに近づきます。
介護現場で起こりやすい場面とリスク
- 食事:食欲の波や嚥下機能の変化で摂取量がぶれ、血糖が乱れがち。代替案(刻み食、やわらか食、栄養補助)を準備。
- 運動・リハビリ:急な運動量増減が血糖に影響。前後の軽食や水分補給を組み合わせる。
- 服薬・注射:投与時間のずれ、見落とし、重複に注意。ダブルチェック体制を。
- 感染・脱水:発熱や下痢・嘔吐時は血糖が乱れやすい“シックデイ”。早めに主治医へ連絡し、指示系統を明確に。
- フットケア:小さな傷が重症化しやすい。毎日の観察と適切な靴・靴下選び、爪切りのルール化。
- 認知機能の変化:服薬忘れや過量内服、低血糖の訴えが曖昧になる。観察記録の質を高める。
家族と本人が身につけたい基礎知識
- 目標は“完璧”より“安定”:日々の暮らしの中で無理なく続けられる範囲を見極める。
- 低血糖の初期対応:ブドウ糖やゼリー飲料を“決まった場所”に常備。外出時も携行。
- 食事のコツ:時間・量・内容の「大まかな型」を決め、体調に合わせて微調整。
- 水分補給:季節・発汗に応じたこまめな摂取。就寝前後の一杯を習慣化。
- 記録の力:血糖、食事、体調メモを一枚にまとめ、介護者と共有。迷った時の拠り所になります。
連携の設計図:情報共有テンプレート
受診券・お薬手帳・ケアプランと合わせて、次のような1枚資料を用意すると実務が回りやすくなります。
①基本情報:診断名/治療法(経口薬・インスリン等)/アレルギー/主治医・連絡先
②日課:起床〜就寝までの食事・服薬・測定タイムライン
③注意サイン:その方特有の低血糖兆候と最初の一手
④予備品:ブドウ糖・ゼリー・予備針・センサー等の保管場所
⑤緊急時手順:家族・主治医・訪問看護への連絡順、夜間・休日の方針
高齢化時代の「自立支援」視点
高齢期の糖尿病ケアは、若年期と同じ“厳密さ”だけを追うと、生活の楽しみが削られることがあります。
- 食の楽しみと安全の両立:誕生日や行事食は“量とタイミングの調整”で楽しむ。
- 動ける範囲で動く:歩行や体操を“短く・こまめに”。
- 目標は“自分らしさ”:数値だけでなく、行きたい場所、会いたい人、続けたい習慣をケア目標に入れる。
施設と在宅、どちらにも効くチェックリスト
入居前
- 主治医情報、最新処方、日々の記録のコピーを準備
- 低血糖対応セットと置き場所の指定
- 代替食・間食の候補リスト作成
入居後/在宅
- 服薬・注射のダブルチェック導線を整備
- 足の観察(色・温度・傷)を日課化
- 体調変化時の連絡フローを明文化
- 記録様式を一枚に統一し、誰でも追える形に
おわりに——対立ではなく、対話へ
糖尿病は「制限の病」ではありません。大切なのは、暮らしと治療の折り合いをつける具体策を、介護・医療・家族で丁寧に作っていくことです。世界糖尿病デーは、私たちが互いの立場を理解し、現場で使えるルールや道具を整え直す良いきっかけになります。
(広報担当)
