介護における「バイスティックの7原則」 ― 利用者との信頼を築くために

介護の現場では、利用者との関係性が支援の質を大きく左右します。その関係を円滑に進めるための理論として有名なのが、アメリカの社会福祉学者フェリックス・バイスティックが提唱した「バイスティックの7原則」です。本記事では、介護の場面に即した具体例を交えながら、7原則がどのように役立つのかを考えてみましょう。
1. 個別化の原則
内容:一人ひとりの背景・性格・価値観を理解し、その人に合った支援を行う。
介護現場での例:
同じ「入浴介助」でも、ある利用者は「手早く済ませたい」と思い、別の利用者は「ゆっくり湯船に浸かりたい」と希望します。マニュアル通りに支援するのではなく、その人の生き方や好みに合わせることが大切です。
効果:利用者の満足度が上がり、信頼関係が深まります。
2. 意図的な感情表出の原則
内容:利用者が感情を安心して表現できるよう支える。
介護現場での例:
「最近、寂しいんだ」と涙ぐむ利用者に対して、「そんなこと言わないで」と遮るのではなく、「寂しいと感じるのですね」と受け止める。
効果:利用者が心を開きやすくなり、不安やストレスが軽減されます。
3. 統制された情緒的関与の原則
内容:介護者は自分の感情に流されず、冷静かつ適切に関わる。
介護現場での例:
認知症の利用者が介護者を罵倒することがあります。その際、感情的に言い返すのではなく、「不安な気持ちがあるのかもしれない」と考え、落ち着いた態度で対応します。
効果:トラブルを防ぎ、安心できる環境を維持できます。
4. 受容の原則
内容:利用者の存在や価値をそのまま受け止める。
介護現場での例:
「昔は偉かったんだ」と自慢話を繰り返す利用者に対して、「何度も同じことを言わないでください」と否定せず、「そうした経験があったのですね」と肯定的に受け入れる。
効果:利用者の尊厳が守られ、自己肯定感が高まります。
5. 非審判的態度の原則
内容:利用者を良い悪いで評価せず、そのまま理解する。
介護現場での例:
「お酒がやめられなくてね」と打ち明ける利用者に対し、「だめじゃないですか」と否定するのではなく、「それが習慣になっているのですね」と判断を保留する。
効果:利用者が安心して本音を話せる環境を作れます。
6. 利用者の自己決定の原則
内容:利用者が自ら選択し、決める権利を尊重する。
介護現場での例:
食事の際、「和食と洋食、どちらにしますか?」と選択肢を提示し、本人に決めてもらう。
効果:自立心を維持し、QOL(生活の質)の向上につながります。
7. 秘密保持の原則
内容:利用者の個人情報やプライベートを守る。
介護現場での例:
他の職員に利用者の過去の病気や家族の問題を軽々しく話さない。必要がある場合でも、チーム内での情報共有にとどめる。
効果:利用者の信頼を得ることができ、安心して介護を受けてもらえます。
介護現場での活かし方
- 新人研修の指針に:介護の基本姿勢として7原則を学ぶことで、現場で迷ったときの判断基準になります。
- チームで共有する文化に:職員間で原則を意識し合うことで、介護の質を安定させられます。
- 家族支援にも応用:利用者だけでなく、家族への対応にも7原則は有効です。特に「受容」や「非審判的態度」は、介護疲れを抱える家族との関係性を良好に保つ助けになります。
まとめ
バイスティックの7原則は、一見すると抽象的な言葉ですが、介護現場での具体的な行動に直結する重要な指針です。「個別化」「受容」「自己決定」などを意識することで、利用者の尊厳を守り、安心できる介護を実現できます。
介護者自身が原則を理解し、日々のケアに落とし込むことで、利用者も介護者も共に心地よく過ごせる環境づくりにつながるのです。
(広報担当)
