外山義さんが提唱する「利用者の居場所になるための家」とは

〜ユニットケアと中間領域が生む安心の空間〜
はじめに
お盆の時期、多くの人が実家に帰省し、久しぶりに親や祖父母と再会します。
その時、歩くスピードが遅くなっていたり、会話の内容が以前と違ったり、家の中の片付け方が変わっていることに気づくことがあります。
こうした小さな変化は、今後の暮らし方や介護のあり方を考えるきっかけになります。
もし将来的に介護施設や高齢者住宅を利用することになった場合、「そこが単なる滞在場所でなく、本当の居場所であるか」は大切なポイントです。
この視点で日本の介護建築に大きな影響を与えたのが、建築家・外山義(とやま ただし)さんです。
本記事では、外山さんが提唱した「居場所としての家」の理念を、事例や背景を交えて紹介します。
外山義さんと「居場所の家」理念
外山義さんは、スウェーデンでの環境心理学研究を経て帰国後、高齢者施設の居住空間改善に尽力しました。
特に、介護施設で高齢者が感じる「5つの落差」を埋めることを重視しています。
高齢者が施設で感じやすい「5つの落差」
- 空間の落差:大部屋でプライバシーが失われる
- 時間の落差:生活リズムが施設側の都合で制限される
- 規則の落差:集団生活のルールで自由が奪われる
- 言葉の落差:命令的・指示的な声かけによる尊厳の喪失
- 役割の落差:社会や家庭での役割を失うことによる喪失感
外山さんは、この落差を解消するために個室化・中間領域の設計・ユニットケアの導入を提唱しました。
建築的アプローチ:個室と中間領域の役割
1. 個室(プライベートゾーン)
- 利用者のプライバシーと安心感を確保する空間
- 個人の趣味や思い出の品を置きやすく、自分らしさを反映できる
2. 中間領域(セミプライベートゾーン)
- 個室と共用スペースをつなぐ橋渡し
- 廊下や小さなラウンジなど、他者と自然に出会える場
3. 共用空間(セミパブリック/パブリックゾーン)
- 食堂やリビング、地域交流スペースなど
- 地域住民や家族との接点を持つことで孤立を防ぐ
ユニットケアとの組み合わせ
外山さんの理念はユニットケアと相性が良く、9〜10人程度の小規模ユニットに個室を配置し、中央に共有リビングを設けることで、自然な交流と見守りが可能になります。
こうした設計は「施設らしさ」を薄め、“家”に近い雰囲気を生み出します。
実例:「きはだの郷」に見る居場所づくり
特別養護老人ホーム「きはだの郷」では、セミパブリックゾーンを屋外空間として活用。
庭や外の景色が日常的に見えることで、内と外の境界が柔らかくなり、開放感が生まれます。
この発想も外山さんの「家らしさを保つ」設計思想を反映しています。
現代介護への示唆
- 高齢化が進む中、施設も在宅も“居場所感”が重要
- 建築と介護の連携による生活の質向上
- 地域とつながる開かれた施設運営の必要性
まとめ
外山義さんが描いた「利用者の居場所になるための家」は、
- 個室によるプライバシー
- 中間領域による交流の自然な促進
- ユニットケアによる小規模な生活単位
という3つの柱で構成されます。
これは単なる建築論ではなく、高齢者が尊厳を保ちながら暮らせるための介護哲学です。
お盆帰省で親の変化に気づいたときこそ、今後の暮らしや介護環境について話し合う良い機会かもしれません。
(広報担当)
